OECD、パリ-2018年9月11日
OECDの「図表で見る教育2018年版(Education at a Glance 2018)」によると、社会的背景は、依然として教育と学習への参加、そして経済社会的結果に影響する主な要因です。
本報告書によると、高等教育を受けていない母親の子供は、早期幼児教育保育(ECEC)を受ける可能性が低くなります。子供の認知的発展が学齢に達する以前から始まっていることは広く認識されていますが、幼児教育保育への公的支出の割合は、高等教育ほど大きくありません。
恵まれない環境で育った子供の進学の可能性も相対的に低くなっています。高等教育を受けていない両親の子供は、後期中等教育で普通課程より職業教育・訓練課程に進学する可能性が高く、しかも修了率は低くなっています。それが今度は彼らのその後の高等教育進学に影響し、高等教育機関では高等教育を受けていない両親を持つ学生の割合が低くなります。
今日では、学歴が高いということの重要性がかつてないほど高まっています。技術の変化、デジタル化、イノベーションにより先端技術が非常に重視されるようになり、低技能の仕事が労働市場から少なくなっています。後期中等教育まで修了した人の賃金は、平均で高等教育修了者のそれの65%で、この悪循環は次の世代にまで影響します。したがって所得が最も低い10%の家庭の子供が、平均水準の所得を得られるようになるには、OECD諸国平均で4~5世代かかるとされています。教育と労働市場における不利は、親から子へと伝わる社会経済的成果の違い、暮らし良さ全体の違いとなって現れます。
アンヘル・グリアOECD事務総長は、パリで開かれた本報告書の発表会見で、次のように述べています。「誰もが人生で成功する可能性を持っており、成長し、能力を開発し、社会に貢献する価値がある。我々には、個人がおかれている環境と社会的状況によってそうした可能性の実現が妨げられないようにする責任がある。これは、教育があらゆる人に約束するものであるべきだ。」(スピーチ全文)
公平な教育を実現するには、各国は教育資金と資源を最も恵まれない人々に割り当て、彼らが留年するのを防ぎ、恵まれない出自の人々に普通課程の教育を受けるよう奨励するべきです。教師にはその専門性を高め、どのような能力の生徒に対しても支援ができる正しい教授法の知識を得られる良い機会が与えられるべきで、質の高い早期幼児教育を利用しやすく安価に提供するというニーズがあります。特に恵まれない環境にいる子供のためにECECに投資することの重要性は、最近発表されたOECDの包摂的成長に向けた政策的取り組みのための枠組み(Framework for Policy Action for Inclusive Growth)の主要な提言の1つで、不平等を減らす方策の1つとされています。
本報告書によると、男女差は依然として存在しています。男子生徒の方が女子生徒よりも留年者や退学者が多く、高等教育への進学率も低くなっています。しかし、女子生徒の方が学業成績が良いにもかかわらず、女性の方が依然として雇用も賃金も男性より悪い状態にあります。女性が高等教育段階で高い報酬が得られる分野に入学、修了する可能性は男性より引き続き低くなっています。例えば、工学の技能は今日需要が多いにも関わらず、工学の学位を取得する男性の割合が25%であるのに対して、女性の割合はわずか6%です。
結束力の強い社会の構築も、移民を社会統合できるか、また彼らが労働市場と共同体に貢献するために必要とされている技能を身につけられるようにできるかにかかっています。しかし、データがある国々では、移民の第一世代、第二世代が学士号または同等の学位を取得する可能性は低くなっています。また、外国生まれの成人が人生を通じて正規教育を受ける可能性も、その国で生まれた同年代の人々よりも低くなっています。
本報告書では、教育は財政的に良い結果を個人にもたらすが、公共部門も高等教育を受けた個人の割合が高まることで、例えば税収や社会保険料が増えるなどして恩恵を受けることを明らかにしています。OECD諸国平均で、政府は歳入だけでも、高等教育を修了する男性1人からは投資額の10%、女性1人からは8%の収益を得ることができます。
2018年版の「図表で見る教育」では、持続可能な開発目標の一部である教育の公平性という目標を各国がどの程度達成しているかについても評価しています。その結果から、公平な教育と学習成果の質の達成が、多くのOECD諸国で引き続き課題となっていることがわかります。
正規教育と非正規教育への成人の参加率の男女差は国によって大きく異なり、男性の方が参加率が低い国もあれば、女性の方が低い国もあります。学習成果の公平性における格差も顕著です。いずれのOECD加盟国でも、15歳の生徒の数学の成績は、生徒の社会経済的地位と学校が都市部にあるか農村にあるかという立地条件と強く結びついています。ほとんどの国で、この結びつきは過去10年にわたって弱まっていません。
「図表で見る教育」は、世界各国の教育の現状を測った比較可能な統計データを収録しています。OECD加盟36か国の他、アルゼンチン、ブラジル、中国、コロンビア、コスタリカ、インド、インドネシア、ロシア、サウジアラビア、南アフリカの教育制度を分析しています。
その他の主な結論:
教育支出
2010~2015年に、OECD諸国の学生1人当たりの教育支出は初等教育、中等教育、高等教育以外の中等後教育では5%、高等教育段階では11%増加した。
2015年の初等教育、中等教育、高等教育以外の中等後教育に対する資金の90%、ならびに高等教育に対する資金の66%が公財政支出による。
就学前教育を受ける3~5歳層の増加に伴い、就学前教育機関への公共投資も増加し、2015年の資金助成総額の83%に達した。過去10年間、この割合はデータがある諸国において4ポイント上昇した。しかし、OECD加盟国平均で、就学前教育機関に在籍する子供の3分の1は、私立の機関に通っており、その割合は高等教育以外の教育段階で見られる割合よりも高い。
教 職
就学前教育の教諭のほぼ全員が女性であるが、高等教育機関では、女性教員の割合は2分の1未満である。
特に、男性を教職に惹きつけることは難しい。女性教師の平均実質賃金は、高等教育を受けた他の職業における女性常勤労働者の平均賃金と同等またはそれ以上であるのに対し、初等教育、中等教育の男性教師の収入は、高等教育を受けた他の職業における男性常勤労働者の平均収入の77~88%である。
教師には学校の指導者となるという強い意欲もある。OECD諸国と本書の分析対象となっている国々において、校長の実質賃金は教師に比べて少なくとも35%は高く、高等教育を受けた他の労働者の平均収入に比べて少なくとも20%高い。データがあるOECD加盟国の半数において、貧困地域または僻地で勤務する校長と教師は追加報酬を得ている。
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「図表でみる教育」のカントリー・ノート、サマリー、主要データなど、詳細は以下のウェブサイトでご覧いただけます。 www.oecd.org/education/education-at-a-glance-19991487.htm
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