OECD ーパリ、2021年6月22日
農業助成は近年世界的に増加し続けていますが、フードセキュリティ、生計手段、環境の持続可能性を向上させるという所与の目的は果たせていません。
OECDの新報告書、「農業政策のモニタリングと評価 2021年版(Agricultural Policy Monitoring and Evaluation)」Agricultural Policy Monitoring and Evaluationによると、OECD全加盟国、EU全加盟国と主要新興諸国11か国を含む54か国が2018~19年に拠出した農業助成の年平均額は7200億米ドルでした。
この年間助成額の3分の1以上、2720億米ドルを負担しているのは消費者で、市場価格助成という形で高い価格を支払っています。その一方で、納税者は予算の移転によって残りの4470億米ドルを支払っています。
農業イノベーションシステムは、社会的見返りが高いにもかかわらず、それに対する支出は予算の移転総額のわずか6%、年間260億米ドルに過ぎません。農業イノベーション、バイオセキュリティ、インフラへの投資は、フードセキュリティを確保し、生計を立て、持続可能な資源利用を支える主要なチャネルで、生産性を持続可能な形で高め、危機管理能力も改善できます。それにもかかわらず、その投資額は760億米ドル、農業助成のわずか17%に過ぎません。
それに対して、農業助成の半分は市場歪曲的で不公平、環境面でも世界全体のフードセキュリティにとっても有害です。2720億米ドルの市場価格に加えて、エネルギーや肥料といった様々な投入物の無制限の利用につながる年間660億米ドルの予算の移転も含まれています。
マリオン・ヤンセンOECD貿易・農業局長は次のように述べています。「世界的にみると、持続可能な生産性の向上と農業の危機対応能力強化を促進する目的で支出されているのは、農業助成6ドルのうちわずか1ドルである。ほとんどの助成は、食料システムの実績を改善するのには有効ではないか、有害ですらある。新型コロナウイルスのパンデミックからの復興において、政府は農業のイノベーションを農業助成の中心に据えるべきである」
本報告書では、現在の助成の大半は所得を農業従事者に移転する上で非効率、便益が大規模生産者に偏っているという点で不公平、水の質や生物多様性を損ない資源の消費と温室効果ガス排出を増加させるという点で環境にも悪影響があると強調しています。市場価格支援、そしてそれに関連する国境措置も、資源の効率的な配分を妨げ、食料を過剰な地域から不足している地域に移転させるという貿易の役割を阻害し、国際的な食品市場のにおける価格変動性を高めることになるため、世界全体のフードセキュリティにとって有害です。
世界の市場をさらに歪曲させるものも、一部またはあらゆる商品の価格を抑制している少数の国々の政策です。このマイナスの価格助成は年間1040億米ドルにのぼり、生産者から移転されています。
世界の食料システムは、増加する世界人口に対して安全な食料と栄養を供給し、食料供給網で働く人々の生活を守り、土地、水、生物多様性といった天然資源を守り温室効果ガス排出量を削減することで環境の持続可能性も改善するという、「三重の難題」を抱えています。
本報告書では、食料システムが抱えるこの「三重の難題」に取り組み、持続可能な生産性の向上をより良く支援し、危機対応能力を農業政策によって改善するために、次の3つの改革を提案しています。
- 価格干渉と市場歪曲的な生産者助成を段階的に廃止する。
- 所得支援を最も必要としている農家に的を絞って実施し、可能な場合にはそのような助成を経済全体の社会政策やセーフティネットに組み込む。
- 公的支出を公共財、特にイノベーションシステムへの投資に向ける。
OECD Agricultural Policy Monitoring and Evaluation について
Agricultural Policy Monitoring and Evaluatioでは、OECD全38加盟国(2021年5月に加盟したコスタリカを含む)とEU全加盟国、主要新興諸国*の政府による農業助成の最新の推計値を収録しています。(*アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、インドネシア、カザフスタン、フィリピン、ロシア、南アフリカ、ウクライナ、ベトナム)
2021年7月5日、OECDと国連食糧農業機構は、2021-2030年のOECD-FAO Agricultural Outlookを発表します。このアウトルックでは、各国、地域、世界全体について農産品市場の中期的な趨勢予測と、新型コロナウイルスの影響分析を収録しています。
► OECD Agricultural Policy Monitoring and Evaluation はこちらからダウンロードできます:英語版 フランス語版
► 本報告書について、詳しくはこちらをご覧ください。
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Lawrence Speer in the OECD Media Office ( +33 1 45 24 79 70).
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