アンヘル・グリアOECD事務総長の記念講演:ビル・フレンゼル自由貿易賞 (The Bill Frenzel Champion of Free Trade Award)-ミネソタ経済クラブ

 

ミネソタ州、米国

2017年4月19日

 

親愛なるカーラ、ジム・ジョーンズ、マック・マクラーティ、エリック・ポールセン議員、トム・エマー議員、お集りの皆様方、

2017年ビル・フレンゼル自由貿易賞をいただき、大変光栄に存じます。今回の受賞について、ミネソタ経済クラブに感謝申し上げます。

私は、ビル・フレンゼル氏の自由貿易に対する強い信念を共有しています。私たちはかつて、それぞれ貿易に携わる機関の自国代表として、現在の国際貿易システムの形成に貢献しました。私たちはともに北米自由貿易協定(NAFTA)の促進を支援しましたし、公共サービスや、とりわけ国際協力に対する情熱も共有していました。ですから、私の立場は正しいと思っています。

友人のボブ・ゼーリック氏と一緒にこの賞を受賞することができたのはとても誇らしく、嬉しいことです。彼は、エコノミスト、法律家、外交官、貿易交渉者、世界的な銀行家、紛争の調停者であり、私がOECD事務総長に選ばれたのも彼の後押しがあったおかげです。本当に素晴らしい人物です。ここにいらっしゃる方々が貿易に携わることに誇りを持っておられることも励みになります。とりわけ現在、貿易政策についてだけでなく、我々がこれまで当然と考えてきた、開かれた、ルールに基づく国際システムについても抜本的な見直しの対象とされている状況だけに、特にその感を強くします。

 

グローバル化は多くの人々を置き去りにしている

 

我々はまず、多くの人々が不満を抱いているということを認めなければなりません。それは当然のことです。経済危機の悪影響を受けて、多くの人々は暮らしが少しも良くなっていないからです。人々は、自分の子供たちの生活は自分たちのそれよりも良くならないのではないかと心配しています。人々は、貿易システムは自分たちのために機能していない、貿易は公正に行われていないと思っています。そして、そう思っている多くの人々は実際正しいということを示す証拠も増えています。

我々はこうした懸念を真摯に受け止め、共有する必要があります。

OECDはまさにそうありたいと努力しています。

OECDは、世界経済が現在陥っている低成長の罠を問題視しています。低成長の罠は、今日の労働者、明日の退職者、そして次世代に約束してきたことを脅かすかもしれないからです。誰もが仕事に関して明るい未来を描きたいと思っている中で、それは容易なことではありません。

OECDは、非常に成功している人がいる一方で、多くの人々は置き去りにされていることを明らかにしています。

OECDは、最先端企業とそれ以外の企業の間の生産性格差が拡大していることに警鐘を鳴らしています。生産性の格差はそこで働く労働者の賃金や機会の格差でもあるからです。

OECDは、世界がどの程度いわば不平等(所得、富、機会)のバミューダトライアングルに嵌り込んでいるかを実証しています。OECD諸国では、今や上位10%の富裕層の所得は、平均して下位10%の貧困層の所得の約10倍に達しています。一世代前、これは7倍でした。

OECDは、大半の人々にとって生活の質が良くなっていないことも明らかにしています。実際、寿命が短くなっている国もあります。米国では現に平均余命が短くなっています。多くの人々にとってアメリカンドリームは依然として夢にすぎません。金銭面でも教育面でもその他の面でも、上昇するのが難しい世の中になってきています。下層の人々や中間層の人々は特にそうです。

デジタル化、いわば「筋肉増強剤を使ったグローバル化(globalisation on steroids)」が、更なる不安を引き起こしています。国際的に、平均で9%の雇用は自動化されるリスクが高く、さらに労働者の25%は自動化のために仕事の半分が様変わりすることになります。こうしたことが大きな懸念材料となっているのは、製造業の職を失った多くの労働者の失業状態が長引いたり、低賃金で不安定な職に就かざるを得なくなっているからです。

 

貿易は人々の生活改善をもたらすべき

 

では、なぜOECDは開かれた市場を支持するのでしょうか。それは、国境が閉じられ、各国が孤立すれば、社会の安定、繁栄、公平性、自由は損なわれることを証明できるからです。開かれた経済は閉鎖的な経済より速く成長します。国の貿易が盛んになればなるほど、技術やアイデアは普及し、労働者の生産性は上昇し、生産性の上昇は賃金の増加をもたらします。結局のところ、貿易が拡大すれば雇用も拡大するのです。

OECDは貿易のための貿易を擁護しているのではなく、人々の生活を改善する手段として貿易を擁護しています。貿易は、OECD諸国でも開発途上国でも、貧困を削減し、新たな市場や機会を創出する一助となっています。これは極めて重要なことです。外国が豊かになり機会が増えれば、自国の安全性も高まります。貿易は機会なのです。貿易は安定性を高めるのです。

保護主義は、保護主義が守るとされている人々を傷つけます。貿易は、日々の暮らし良さを支える安価な製品やサービスをもたらします。貿易は人々に究極の選択の自由を与えます。輸入に税金を課せば誰にとっても負担は増しますが、最も重い負担を強いられるのは支払う余裕のない人々なのです。

輸出はよいことで輸入は悪いことだとか、輸入を少なくすれば得をするとか言われています。しかし、貿易とはリレー競争のようなものであり、北米がそのことを如実に示しています。まず米国の技術によって製品が作られます。メキシコの労働者がそれを発展させ、カナダの労働者は付加価値をつけ、米国はそれを仕上げて売る、というわけです。その製品がゴールインする時点で誰がバトンを持っているかは重要ではありません。全員が勝者なのです。

このようなグローバル・バリュー・チェーンは、我々の経済が今やかつてないほど相互に連結していることを意味しています。世界貿易のほぼ3分の2は、輸入されるもので、輸出向けを含めて他の製品を作るために利用されている中間財です。関税を引き上げれば自ら災いを招くことになります。なぜなら、それによって自国の中小企業が廃業に追い込まれたり、大企業が雇用を海外にさらに移転させるようになったりするからです。また、たとえ貿易をやめても、技術によって今後も残る雇用と消えていく雇用が決まったり、残る雇用の生産性が左右されたりするからです。

 

進むべき道

 

では、我々はどうすればいいのでしょうか。保護貿易という守りの姿勢から、貿易システムが全ての人のために機能するようにする貿易以外の様々な政策を積極的に活用する、攻めの姿勢へと移行すべき時が来たのです。我々は、生涯学習と技能習得を推進しなければなりません。インフラの整備を進めなければなりません。貿易の影響に直撃されている地域のために新たな機会を創出しなければなりません。生産性を高めるために、大企業も中小企業もデジタル化を推進しなければなりません。

我々は皆何が貿易競争力を生み出すかを知っています。機会、イノベーション、競争を奨励する国内政策です。

中小企業の事業環境を整備する必要があります。関税を引き下げ、貿易コストを引き下げる必要があります。あらゆる業種の負担増に繋がるサービス障壁を取り除く必要があります。競争を促進するために効率的かつ公正に規制する必要があります。信用の流動性を維持する必要があります。さらに忘れてならないのは、法の支配がなければ何事もうまくいかないということです。

しかし、貿易政策だけで全てを解決することはできません。できるふりをするのはやめるべきです。

貿易には混乱をもたらす面もあります。しかし、一時的な後退のせいで各世帯の半数あるいは全員が失業することになっても、そうした不遇が、親にとっても子供にとっても、一生続かないようにする必要があります。

これは、求職を支援する適切なプログラムや、自立を促し、困難な状況の継続を防ぐための社会保障制度を整備する必要があるということです。

また、将来を見据える必要があるということです。仕事が変化してきているので、労働市場や社会保障制度も変えなければなりません。OECDは改めて各国政府の態勢づくりを支援するツールキットの作成を進めています。2週間後には、グローバル・サプライ・チェーンの世界において全ての人が良質な雇用を確保、維持できるようにするための方策に関する『技能アウトルック(Skills Outlook)』を公表することになっています。

しかし、包摂的であるということは、能力を付与したり、様々な声に耳を傾けたりすることでもあります。我々は貿易政策の策定をより開かれたものにする必要があります。

誰でも交渉の席に座ることができるわけではありませんし、必ずしも合意に達するわけでもありませんが、対話は新たな解決策を見いだす助けになり得るものです。人々はトレードオフについて意見を交わし、理解しなければなりません。

背景状況や地理も重要です。地元の立場に立ち、人々とその地元において寄り添う必要があります。貿易と日常的な経験を再び結び付ける必要があります。

最後に、あらゆる利用可能なツールを駆使して、国際システムの機能を改善する必要があります。これは、ルールの場合もあれば、自主的な基準や対話、透明性などの場合もあります。しかし、貿易から租税、労働、環境に至るまで、システムを自由で公正かつ開かれたものにするためには、国際経済協力が必要です。自由で公正な貿易とは、保護主義や助成、為替操作に「ノー」と言うことです。しかし、生産性や競争力が低い本当の原因に対処せず、敵を間違え、誤った戦いをすることに陥らないよう、適切な処方箋を講じるよう細心の注意を払わなければなりません。

農業や競争、投資、サービスなどの分野のように、ギャップや不備がある場合にはルールを修正する必要があります。租税や責任ある企業行動に関する政策など、システムをより公正なものにする政策を強化する必要があります。

全ての人がルールに従って行動しなければなりません。我々は合意事項の履行、監視、強制に真剣に取り組まなければなりません。

 

親愛なる皆様、

まもなくNFL(ナショナルフットボールリーグ)のドラフト会議が開かれ、ミネソタ・バイキングスが新人選択選手を指名します。この米国流の儀式では、前年度の最下位球団が最上位の指名権を獲得し、優勝球団には最後の指名権が与えられます。これは何も利他主義的な考えに基づいているわけではありません。米国フットボール界の優秀な幹部は、下位球団の力が底上げされず上位球団が強いままだと、ファンが地元球団の勝利を信じられなくなり、ゲームを見なくなるということを理解しているのです。したがって、このシステムは毎年、公正な方向にバランスを取り直しているのです。

我々も同じことをする必要があります。正しいと分かっていること-より多くの人々にとってより良く機能する、自由で公正で開かれた、ルールに基づく包摂的な貿易システム-から後退してはなりません。

しかし、真に統合的な-究極的な目標として機会と暮らし良さに重きを置いた-国内及び国際政策のみが、我々の祖先が流血の戦いの後、近代的な国際貿易経済システムを創設した時に意図したこと、すなわち全ての人々の暮らし向きを良くすることができるのです。

ご清聴ありがとうございました。

 

 

 財及びサービス;TiVAのデータ(2016年改訂)を用いたOECDの計算によれば、数値は64%。

 

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